渡辺隆次胞子紋の世界展【終了しました】
2006年の「きのこのスケッチ展」で紹介した画家渡辺隆次が胞子紋(きのこの胞子が落下して作る紋様)を用いて制作した作品とエッセイを収録した画文集が今年2月に刊行されました。それを記念する展示を開催します。
渡辺隆次の胞子紋画
大倉 宏
開催期間 2021年5月27日(木)~7月11日(日)
開館時間 9:00-21:00 (月曜休館日)
砂丘館 渡辺隆次画文集刊行委員会 協力 フィリア美術館
胞子紋のフォルムにはなぜか既視感(ルビ デジャビュ)がある。遥か昔から知っていた、そんな思いがある。それは、まばゆい光彩、放っては万物をやさしく包み込んでくれる。そして、人の世の重圧に救いの兆しが芽生えるようにも感じられた。
(渡辺隆次「わがイコン 胞子紋」より)
砂丘館の庭にもよくきのこが出る。動物・植物・菌類は命の循環世界の三本柱だと私に教えてくれたのは渡辺隆次著『きのこの絵本』(ちくま文庫 1990年)であった。きのこを含む菌類という、有機物を無機物に変える(戻す)存在がいなければ、地球は腐敗物だらけになってしまうのだという。砂丘館でちょうど15年前(2006年)に渡辺の「きのこのスケッチ展」を開催したが、渡辺にはきのこを描いた絵ばかりでなく、きのこと描いた絵があり、それが「胞子紋画」と呼ぶべき作品群だ。この2月に刊行された画文集『森の天界図像 わがイコン 胞子紋 渡辺隆次きのこ画文集』は渡辺のそんな胞子紋画をエッセイとともに紹介した美しい一冊である。
きのこと渡辺の出会いは東京から八ヶ岳山麓に移住した44年前にさかのぼるが、シモフリシメジとの邂逅を機縁に、胞子自身が描く不思議な図様に注意を向けるようになった。きのこを一晩紙上に置くと、傘裏の襞や管口から胞子が舞い落ちふしぎな紋様をつくる――それが胞子紋だ。紙の鏡にきのこが自分の内面をさらし、映しだしたような絵様に魅惑された画家は、定着液でそれらを固定し、絵筆を加えるようになる。過去の絵や版画に胞子紋を加えることもおこなわれる。こうして営々と制作され続けることになった「胞子紋画」群を改めて俯瞰すると、本書への寄稿で飯沢耕太郎氏(きのこ文学研究家・写真評論家)が書くように、作品自体が、というより画家自身が「しだいにきのこ化し始めている」ように見えてくる。
胞子紋を渡辺は「わがイコン」と呼ぶ。イコンは聖画像という意味だが「絵と死を天秤にかけ」た結果、都市生活を捨て山里に住み描くことを選んだ若き日の渡辺隆次の初期の(それはそれで、すぐれた表現でもあった)絵は、外部に向かって厚く鎧われた姿をしていた。胞子紋は寓話の「北風と太陽」の太陽のように、頑なだった画家の心を照らし、あたため、鎧をほどいたのだ。「ほどき」はもちろん、一朝一夕で成就したわけではない。山里での日々で自然と人間を観察し、きのこという目立たない、画家自身もかつては関心を向けることのなかった存在の、全世界、ひいては地球におけるかけがえのない役割を理解していく過程と平行して起こった。本書に掲載された「わがイコン 胞子紋」(書き下ろし)や、過去の著作からの抜粋の数々は、そのような画家の心のドラマを伝えている。ささやかな「きのこの里」でもある砂丘館に、そんな渡辺の胞子紋画たちを迎える。
(砂丘館館長)
ギャラリートーク「わがイコン 胞子紋」渡辺隆次 聞き手:大倉宏(砂丘館館長)
6月19日(土)14:00-15:30
参加費500円 定員25名
砂丘館へ電話・ファックス・Eメールで要申込
『森の天界図像 わがイコン胞子紋 渡辺隆次きのこ画文集』
画・文 渡辺隆次 寄稿 飯沢耕太郎(きのこ文学研究家・写真評論家)/宇井浩一(医師・美術コレクター)/四釜裕子(編集者・詩人)/大倉宏(美術評論家) 企画制作 渡辺隆次画文集刊行委員会 発行 株式会社大日本絵画 2021年 2200円+税
全国書店・砂丘館売店にて販売中
*画文集刊行記念展開催の支援をお願いしています。(5/31まで)
【同時期開催】
渡辺隆次展 新潟絵屋 6/12-27
新潟市中央区上大川前通10-1864
虫霊塔 2014年夏~2019年10月 胞子紋・ミクストメディア、板・紙
*刊行記念展は下記でも開催を予定しています。