光をとる2 Night in Earth 中里和人写真展【終了しました】
- 2021年10月1日(金)~31日(日)
- 9:00~21:00
- 定休日:月曜日
- 観覧無料
- 主催:砂丘館
小屋から月下の岩場へ
『小屋の肖像』を教えてくれたのは、砂丘館のホームページを長く制作してくれた今は亡きY氏だった。よくみると個性的な小屋の数々を撮った中里和人の写真集だ。小屋ならぬ納屋に放火するのを習慣にしていると語る男がでてくる村上春樹の短編「納屋を焼く」を思い出したのは、その中里が月下の岩礁を撮った近作の写真集「Night in Earth」を見ていたときだ。短編は読後「納屋」は隠喩だったらしいと、突然わかりぞっとするのだが、ぞっとするというのは、ふだん仮死している「親しいもの」がゆり覚まされることだとフロイトは書いている(「不気味なもの」)。小屋の写真にぞっとしたわけではないが、中里が手掘りの隧道「間歩(まぶ)」を訪ね撮った写真を、大地の芸術祭で見たときは、ほの暗い場所が好きだった幼年期を呼び覚まされた。「Night in Earth」は月光が照明する海岸の岩場を撮ったシリーズで、めくっていると別の天体に投げ落とされたような気分になり、言い知れぬ戦慄におそわれる。村上の短編で納屋(小屋)への放火が騒がれないのは、それが普段目にはされていても、見えていない、意識の縁辺にあるものだからだろう。小屋、間歩、月下の岩場…中里の関心もそんな意識の周辺とその彼方にあるように思える。かすかな明るみに浮かびあがる岩場に畏怖を感じるのは、いつか、自分がそこにいて、意識から消し去った場所のように見えるせいだ。荒れはてた町で出会った恐るべき異界が、家系をたどって帰るべき故郷だと最後に知る「インスマウスの影」(ラブクラフト)の主人公の驚愕と、恐怖と、やすらぎを思い出す。 (大倉宏)